『日本美術界腐敗の構造 パリからの報告』 



                   江原 順著  サイマル出版  980円



 日本美術界の退廃の構造を詳細に述べ痛烈に批判している。
芸術が投機と利権の対象となっている現実と贋作が横行する美術市場の現状を分析し対応の必要性を述べている。
 「池田満寿夫」を例に創作の本質に触れることなく様式の模倣だけが氾濫し、美術界の流行に絶えず自分を合わせていく便乗派が横行する日本の美術作家の現状を述べている。

美術市場が本来中心となるべき美術館学芸部をすっ飛ばし、美術品を商品のように考える、投機的な呼び屋により占められ、美術品が利潤追求を第一目標とする画商の手で扱われるようになり、偽作マーケットが構成される。偽作マーケットの存在は美術市場のもともと真贋を問わない、利潤追求から始まっている。偽作屋に知名度の高い文人や学者が序文執筆者などに利用される。
 偽作購入事件を取り上げ、その背景に門外漢の美術行政の介入とたかり体質、研究体制の不備、真贋分析の必要性を訴えている。

 ポリシーのない日本の文化政策の貧困。表面的な文化交流の名のもとに商品のように文化財をむやみに移し、作品の保存に関しては梱包、輸送、展示技術の進歩により重大な損傷はきわめて稀になっているが、ほとんど口にされることがない小さい損傷の集積の結果が起こす実際の危険性を指摘している。 

 美術界の利権構造は「直接に公安を乱すものでない」と世界の監視が少ないが、政界や財界の腐敗よりはるかに汚れている。
 1978年に出版され、多少スキャンダルな文章であるが書かれている内容は事実であろう、そして30年たった現在もこの状況は変わっていないと考えられる。

                         (2009年3月14日)


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