Dora Tauzin.net
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Poésie française





                         le 11 juin 2009

ここに生きるために

                        ポール エリュアール
                        坂本正通 訳


私は火をおこした、紺碧の空が私を見捨てたので、

火、空の友達であるための、

火、冬の夜に私を導くための、

火、よりよく生きるための。


私は日の光が与えてくれたものを火に与えた:

森林、灌木の茂み、麦畑、葡萄の木々、

巣と小鳥たち、家々とその鍵

昆虫、花々、毛皮、まつり日。


私はパチパチはじける炎の音だけに、

ただ単なる炎の熱気の香りだけに生きた;

私は 行き場のない水のなかを流れる舟のように、

ただ一つの縄張りしか持たない死人のようであった。









                le 19 mai 2009

秋の歌

                      ポール ヴェルレーヌ
                      坂本正通 訳

秋の日の

ヴァイオリンの

絶ゆることなき すすり泣き

単調なけだるさが

私の心を傷つける。



鐘の響きに、

胸つまり

蒼ざめ、

過ぎし日々の

思い出に

涙ぐむ;



そして 私は

落葉のごとく


あちら、こちら、つれ去る

きまぐれな風に

消え失せる。








                      Le 16 mai  2009

ある日 あの人が戻って来たら 

                   モーリス メーテルリンク
                   坂本正通訳


ある日 あの人が戻って来たら

何て言おうかしら?

―死にそうなぐらい

あなたを待っていたと言いなさい・・・



それでも、疑って

尋ねるなら?

―修道女のように話しなさい

たぶん あの人は傷つくだろう・・・



何処にいるのかたずねるなら

何て答えようかしら?

―何も言わずに

金の指輪を上げなさい・・・



どうして部屋が殺伐としているのか

知りたがったら?

ー消えたランプと開けっ放しのドアーを

見せなさい・・・



それでも 近況について

尋ねるなら?

ーあなたが泣きはしないか心配だと

微笑みながら言いなさい・・・







       le 4 mai 2009


私の部屋


マルスリーヌ デボルド・ヴァルモール

                 坂本正通 訳


私の住まいは高台にあるわ

空に面しているわ;

そこにある月は御主人様よ、

冴えなくて、真面目な

鐘の音が下から聞こえてくるわ、

今日は何か大切な事があるの?

彼がいないって事は、

誰もいないって事よ


  誰も知らない処に、

  花を刺繍するわ

  怒ることもなく、

  私の魂は悲しみで一杯よ

  澄んだ青い空、

  ここから空を見るわ;

  星を見るわ

  でも、嵐も同じよ!


椅子があるわ

その椅子は彼の物だったのよ、

もともと私の物よ

ある時は私たちの物だったのよ

リボンの目印のある、

椅子はそこにあるわ、

すべては諦めよ

ほら 私のようにね







                       le 4 mars 2009
 鎮痛剤


         マリー・ローランサン

坂本正通 訳


退屈な女よりも   悲しい女

悲しい女よりも   不幸な女

不幸な女よりも   悩める女

悩める女よりも   捨てられた女

捨てられた女よりも 孤独な女

孤独な女よりも   追われた女

追われた女よりも  死んだ女

死んだ女よりも   忘れられた女

                  

 







                        le 25 février 2009

     戸 棚 


                      アルチュ
-ル ランボー 

                      
 坂本正通 訳


幅の広い彫りのある戸棚、くすんだ樫の木で出来た、

とても古く、お年寄りのような上品な雰囲気を醸し出している、

戸棚は開いたまま、ここちよい香りの

古いワインが流れるように、その影に注ぎ込む、 


その中は、がらくたでいっぱいだ、

匂いのする、黄ばんだ肌着、女や子供の

ぼろ切れ、色褪せたレース、

グリフォンの描かれたおばあさんのネッカチーフ、


― そこで、メダイヨンを見つけるだろう、白髪やブロンドの

ランプの芯、肖像画、ひなびた花束

それらは果物の香りの混じった匂いがする。


― ああ 古からの戸棚、君はいろんな話をよく知っている

君はそれらの物語を話したいだろう、

大きな黒い扉がゆっくりと開く時、君は喋り始める。








                           le 21 janvier 2009

   鳥の絵を描くために
                     
ーエルザ アンリケに


                     ジャック プレヴェール

                     坂本正通 訳


まず 鳥籠を描こう

扉を開けたまま

それから 

何か綺麗なもの

何か簡単なもの

何か美しいもの

何か役立つものを

鳥のために描こう

それから 

庭のなかの

林のなかの

或いは 森のなかの木に絵を立て掛け

何も言わないで

動かないで

木の後ろに隠れて

時には 鳥は早く来る

でも 来るまでに

長年かかることもある

がっかりするな

待とう

何年かかろうとも待とう

鳥が来る 早いか遅いは

絵の出来不出来に

何の関係もない

鳥が来たら

もし 来たら

じっと静かに

鳥籠に入るのを待とう

そして 入ったら

絵筆で扉をそっと閉めよう

それから

格子のすべてを1つ1つ消そう

鳥の羽根に触れないように気をつけて

それから 木を描こう

鳥のために

もっとも 美しい枝を選ぼう

青葉やすずしげな風 光の埃も

夏の暑さの中で草むらの動物たちのざわめきも描こう

そして 鳥が歌うのを待とう

もし 鳥が歌はないなら

それは まずいしるしだ

絵が下手なしるしだ

もし 鳥が歌うなら それは上手なしるしだ

自慢が出来るしるしだ

鳥の羽根の一本を

そっと引き抜き

絵のかたすみに君の名前を書けばよい










                        le 14 janvier 2009

     
貧しい人の死
         

                     シャルル ボードレーヌ

                     坂本正通 訳



苦しみを和らげ、生き続けようとさせるのは「死」だ。

人生の目標、唯一の希望

死は、媚薬のように我らを昂揚させ 酔わせる、

我らに日が暮れるまで歩み続ける気持ちを抱かせる。


嵐や、雪や、氷雨を掻い潜り、

我らの暗い彼方に仄かに揺らめく光だ。

書物に記載された名だたる宿屋だ、

そこで食べ、眠り、安らぐことができる。


眠気とうつつの夢の贈り物を

抗いがたい手の中に包む天使だ、

天使は貧しく裸の人々の寝床をつくる。


死は神々の栄誉、神秘の穀倉

死は貧しい人の財布 貧しい人の古の故郷、

死は未知なる世界に開かれた入口だ!











                        le 7 janvier 2009

     
青  鷺
         

                      ジャン ド ラ フォンテーヌ

                      坂本正通 訳
 



ある日、何処から来たのか知らないが、長い脚をした、

長い首の先に長い嘴をつけた青鷺が

   川のほとりを歩いていた。

天気がよいのか、水面は透き通っていた。

鯉のあばさんはカマスのおじさんと

   水の中をせわしく行ったり来たりしていた。

青鷺はそれを楽々と獲ることが出来ただろう、

魚たちはヘリに近づいて来る、鳥は食べさえすればよかった。

   しかし青鷺は食欲がなかったので

   待つほうがいいと考えた。

彼は食養生をしていた そして きまった時間に食事をしていた。

少したつと、食欲が出てきた、鳥は、

   ヘリに近づき、水面を見た

住処の奥から出てきたのはウグイだ。

この料理は自分の好みではない、もっと美味しいものを待とう、 

  そして、お人好しオラスの鼠のように

  気難しい好みを示した

『俺がウグイを! 俺様は、 青鷺だぞ、こんな 

不味いものが食べられるか? 俺を誰様だと思っているんだ?』

ウグイは嫌いだ 彼は川鯊を見つけた。

『川鯊!これが青鷺様の御馳走か!

こんな雑魚のために嘴を開けるのか!真っ平ごめんだ!』

彼はもっと粗末なものを食べることになる、万事がこんな風であった

  どんな魚も もはや見つからなかった

腹が減り蛞蝓を食べた、一匹の蛞蝓に出会ったことが 
 
  幸いであり 気休めであった
  
  あまり我が儘をするな、

妥協すること、それが利口な生き方だ、

あまり欲を出すと損する恐れがある、

  何事も疎かにするな

とりわけ 少しでも貴方の望みに近い時には [・・・]









                           le 5 novembre 2008

           

         

                         アルチュール ランボー

                         坂本正通 訳



銀や銅でできた戦車

鋼や銅でできた舳先が

泡を切りすすむ

荊の株を根こそぎに

荒野の流れ

引き潮の大きな轍が

東の方へ輪をえがき広がる

繁る木々の方へ防波堤の幹の方へ

そして その先に

光の渦が入り混じる






   

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